透明を編む 【完結】


それから数週間、すっかり深くなった秋に冬の足音を感じる今日この頃。

学校帰りに冬に向けてマフラーを買うべく繁華街のある街へとやってきた。

繁華街といっても学校からも近く、わたしの最寄り駅から二駅しか離れていないそこは駅ビルを始め多くの商業施設や個人経営、チェーン店が建ち並ぶ賑やかな所で、平日は学生や会社員、そして休日には家族連れで賑わう場所だ。


商業施設の中にある一つのお店に入り、雑貨を見て回る。お店の中はすっかり冬模様になっていて、すぐそこまで来ている冬をより一層感じる。

冬物の手袋やマフラー、帽子などが様々取り揃えてあり、わたしはその中のメインに緑色を使ったチェック柄のマフラーを手に取った。

触り心地も良いし、柄も可愛いし、これにしようかな。⋯⋯と思ったところで、ふっと心に影が差してやっぱりやめよう。とマフラーを棚に戻す。


やっぱりマフラーは今年も巻けない。



三年前事故に遭った時、わたしは千冬が誕生日にプレゼントしてくれたマフラーを巻いていた。

真っ白で先に丸いモコモコが付いているシンプルでとっても温かいマフラーを。

千冬はそれを「六花に似合うと思ったから」って言いながら渡してくれたんだ。


その真っ白のマフラーが血で真っ赤に染まって使えなくなってしまったあの日からわたしはマフラーを巻く事をしなかった。いや、出来ないでいる。

今だってあのマフラーを使っているはずだった。
大切に毎年使って、その度に千冬がプレゼントしてくれた事を思い出して、「あったかいよ」って顔を埋めているはずだったのに。

そう思うとどれだけ可愛いマフラーを見つけても買おうとは思えなかった。


でも今年は、もう千冬とは元に戻れないんだって、これ以上傷つきたくはないって、もう諦めようって思ったから⋯だからマフラーを買おうって思ったのに。そうやって一つ一つ乗り越えて、塗り替えて、千冬がわたしを忘れたい様に、関わりを絶ちたい様に、わたしも千冬の事をもう諦めようって思っていたのに。

⋯⋯今年もまた、マフラーを買う事が出来なかった。

千冬がくれたあのマフラーじゃなきゃ嫌だって。

子どもみたいに我儘で未練タラタラで。

でもやっぱり、忘れられなくて。


棚に戻したマフラーに今年もまた、わたしはあの真っ白いマフラーを忘れる事など出来ない事を思い知った。

そしてそれは千冬のことも諦められないのだと。