透明を編む 【完結】

「雪乃ちゃん⋯？」


放課後、なんだか寂しい気持ちが募って家の近くの公園のベンチに座っていれば肩を叩かれて、振り向けばそこには千冬のお母さんである雪乃ちゃんが立っていた。


「（六花ちゃんどうしたの？）」


小首を傾げて優しく微笑む雪乃ちゃんは高校生の息子がいるとは思えない程綺麗で、可愛らしい。だけど大人の品もあって、わたしも大人になったら雪乃ちゃんみたいな女性になりたいなって密かに思っている。

そんな雪乃ちゃんは「寒くない？」とバッグからブランケットを取り出してわたしの膝に掛けてくれた後、自身もわたしの隣に腰を下ろした。


どうやら雪乃ちゃんは趣味で通っている華道の習い事の帰り道だった様で、たまたま公園にいたわたしに気付き声をかけてくれたらしい。


「（）うやってこの公園に六花ちゃんと居ると懐かしい気持ちになるなぁ）」


雪乃ちゃんは手話ではないジェスチャーを交えて話をしてくれる。手話ではないものの、わたしもまだ手話を完全にマスターしているわけではないし読唇術の方が得意だから特に困る事はなく、雪乃ちゃんとの会話はスムーズに進んでいく。


「ここ、わたしと千冬が仲良くなった公園ですよね」

「（そうそう。だからね、高校生になった雪乃ちゃんと居ると不思議な感覚がするの。だって周りの景色を見れば、まだちっちゃかった六花ちゃんが思い浮かぶから）」

「なんか少し恥ずかしいかも⋯」

「（ふふ、あの頃の六花ちゃん可愛かったなぁ。もちろん今もとっても可愛いし、勝手に娘の様に思っちゃってるから成長が嬉しくもあるよ）」

「娘、ですか⋯？」

もちろんわたしはお母さんとお父さんが大好きだし二人のもとに生まれてきてよかったと心から思っている。
だけどそれとは別にわたしを小さい頃から知り娘の様に思ってくれている存在がいる事、それが雪乃ちゃんな事がとても嬉しい。