透明を編む 【完結】


二人から目を逸らす様に窓の方を見遣れば、校庭に立つイチョウの木から葉っぱがひらりと舞い落ちる。

そういえば、この季節の風や木々の囁く音を“秋の声”というのだと昔千冬に教えてもらった事がある。

あれは確か、中学二年生の頃で一緒に下校していた時だったと思う。

風が吹いて葉が揺れて宙を舞って。

それを見た千冬が「秋の声だ」って言った。

その時わたしは「何それ」って返して、千冬が「風や葉が鳴らす音だよ」って教えてくれて。

その後は二人で風が吹く度に「秋の声だね」って笑い合った。


あの頃は毎日がキラキラしていた。

毎日千冬と一緒に過ごして言葉を交わしていた。

でも今は、わたしは千冬の声を聞くことも出来ないし、秋の声だって聞こえない。

もう、あの頃の様に「秋の声だね」って天高く澄み渡る快晴を見上げて笑い合う事が出来ない。

二度と、出来ないんだ。