それからはもう、わたしも少し疲れてしまって。
無視される度に傷つき落ち込む事に疲労して、また前みたいに戻りたいって気持ちと同じくらい、千冬がわたしを受け入れてくれないのは仕方ないのかもしれないって諦めていた。
だってやっぱり、耳の聞こえないわたしは昔のわたしではないし、千冬もまた、昔の千冬ではない。
音が聞こえなくなるという大きな変化の前で、わたし自身が変わらないなんて事はない。
千冬もそんなわたしを前にして変わらないなんて約束はなかったんだ。
休み時間、ポーっと教室の中から廊下に視線を移せば、千冬は角野さんという子と話をしていた。
角野さんはは新学期に千冬と話していた女子生徒で、同じクラスの彼女はいつも笑顔が絶えなくて明るくて⋯⋯。
今だって角野さんはニコニコと何かを話していて、千冬も少し笑っている気がする。
わたしにはもう、向けてくれる事のない表情。
千冬と仲が良いのかな、もしかして付き合ったりしてるのかなって、二人の姿を見る度にモヤモヤしては泣きたくなって、自分自身が嫌になる。
こうやって角野さんを羨んで嫉妬して、その癖もう傷つきたくないと諦めている自分が酷く滑稽に思えた。
わたしがもし事故に遭っていなかったら。
今でも音が聞こえていたら。
角野さんの様にいつでも明るくいられたなら。
絶えず笑顔を浮かべている様な可愛らしい子だったなら⋯⋯。
わたしが“普通”だったら、千冬は今でもわたしの傍にいてくれたのかな。
わたしに懐かしいあの笑顔を見せてくれたのかな。



