残暑も段々と薄まって、秋の初風が優しく頬を撫でる九月下旬。

あのお祭りの日から、千冬はまたわたしを避ける様になった。

前は話しかければ返事をしてくれたし、同じクラスになって一時期よりはまた距離が近くなったと思ったのに、最近の千冬は返事をしてくれるどころか目線すら合わせてくれない。

たった数十センチ分の間しか隣の席同士のわたし達には距離がないのに、そこには分厚い壁が造られている。


「千冬っ⋯、」


お昼時、教室を出ていく千冬の後ろ姿に声を掛けても返事が返ってくる事はなく、当然足も止めてはくれなくて。聞こえているはずなのにわたしの声を無視して教室を出る千冬に唇を噛んだ。

たまに家の近くで会う事もあるけど、その時も千冬はまるでわたしを透明人間の様に居ないものとする。声を掛けても、袖を掴んで引き止めても、すぐに振り払われて何を言うでもなくただ、無言で立ち去る。

そういう事が続いて精神的にもかなりキツい毎日。

好きな人に避けられるという事だけでも悲しいのに存在まで無視されてしまったらどうすればいいんだろう。

もしも千冬の声が聞こえたら、この悲しみも恐怖心も少しはマシだったのだろうか。

無音の世界で存在を無視される事はとても怖かった。