透明を編む 【完結】

「（少しだけ。簡単なものなら）」


そう言って手話をしてみせる千冬はどうして手話を知っているんだろう。

どうして勉強してくれたんだろう。

それがわたしの為だなんて────期待したくはないけれど、どうしたって胸がドキドキして。


「わたしの、為⋯？」

「（⋯⋯）」

「⋯っねぇ、千冬。千冬はどうして急にっ⋯、」


ふと、千冬の視線がわたしから逸れて空に向かう。

その先を辿り後ろを向けば今までで一番大きな花火が打ち上がっていた。今年の花火はフィナーレを迎えたのだろう。

散り散りになった火の粉が名残り惜しそうに雨の様に降り、儚く消えてゆく。


花火は儚い。

あんなにも美しいのにその煌めきは一瞬で。

あんなにも派手に夜空を彩っていたのに、今はただ、真っ暗な空が頭上に広がるだけ。

なんて寂しいんだろう。なんて切ないんだろう。


少しだけ千冬は花火に似ていると思った。

美しく綺麗なのに、手が届かなくて。

瞬きをしている間に消えてしまいそうで。

実際に千冬はわたしの傍から消えてしまった。

物寂しげな今の空はわたしの心に似ていた。