わたしは耳が聞こえないけど普通学校へと通っている。
最初はろう学校へ通うことも考えたけど、聴力に障害があっても普通学校へ通っている人もいるという事を知って、頑張ってみようと思った。
両親は最初は支援が充実しているろう学校へ行く事を望んだけど、わたしが受験に向けて努力する姿を見て最終的には応援してくれた。
ちなみに学校での授業はどうしているかというと、板書は本当に大切で、先生が黒板に書いた事をきっちりとノートに書き移している。
だけど口頭で説明を受ける事も少なくはない。
その為、聴力の弱いわたしが授業について行くのは難しい。板書だけで乗り越えるには限界がある。
だから家庭教師を雇ったりしてなんとか授業についていっている感じだ。
春うらら。
もう殆どが散ってしまった桜の花びらが微かに春の名残を感じさせる中着いた修了式以来の学校。
何組だろう?と掲示板に貼られているクラス表を確認すれば、2-Aの所に石川六花の文字を見付けた。
「わたしはA組かあ」
呑気にそう呟いたのも束の間、すぐ上に並んだ名前にここ最近で一番胸がドクンっと高鳴る。
有馬千冬。
その名前を見ただけで痛いほどの愛しさと切なさが込み上げてくる。
千冬も、同じクラスなんだ⋯。
嬉しい。一年間千冬と同じ教室で過ごせるのは本当に本当に嬉しいのだけど、ほんの少しだけ、どうしたらいいんだろうっていう不安もあって。
わたしは落ち着かない気持ちのまま二年A組の教室へと向かった。



