透明を編む 【完結】

自動ドア一枚を挟んだ向こう側にいるのは間違いなく千冬だ。

ペットボトルの水を買っている。


「⋯⋯、」


夏休み中は会えないと思っていたのに会えた。

しかも、お祭りの日に。

小さな偶然も自分の気持ち次第で奇跡に変わる。


終業式以来の千冬に少し緊張しながらコンビニのドアを潜ったのと同時に支払いを終えた千冬が自動ドアの方へと歩いてきて、ぶつかる視線。

眉を顰めすぐに逸らされた瞳。


わたしは会いたかったけど、千冬は会いたくなかったのだろう。

そのまま通り過ぎようとする千冬のTシャツを掴んだ。


「今から家、帰るの⋯?」

「(だったら?)」

「なら、一緒に帰ろう」

「(⋯は?)」

「おにぎりだけ買ってくるから、ちょっと待っててっ⋯」


自分勝手だなぁと分かっていても、少しでも千冬と過ごせるなら数分の道のりだって逃したくなくて。

大急ぎで適当に鮭のおにぎりを一つ手にしたわたしはそのまレジに向かい支払いを済ませる。

その様子を千冬は迷惑そうに見ていたけど、コンビニを出て先に帰る事はせずにいてくれた。


「お、おまたせっ⋯」


だけど必要以上に何かを喋る事もなく、おにぎりを手にしているわたしを一瞥するとそのままコンビニを出て歩き出した千冬の後を追う。

千冬はこれからお祭りに行くのかな⋯。

でも家に帰るという事は行かない可能性の方が高いかもしれない。

そう思ったら嬉しくて、自分の中にある子どもっぽい醜い感情に気付いた。