透明を編む 【完結】



そんな事があってから数日。

お祭りに行くという両親を玄関先で見送る。


「(本当に六花は行かないの?)」

「うん、家で待ってる」

「(かき氷もりんご飴も何だって買ってあげるぞ?)」

「じゃあお土産でりんご飴お願い」

「(本当に行かなくていいのね?)」


何度も誘ってくれるお母さんとお父さんに頷いて手を振れば、二人は「(ちゃんとお土産買ってくるからね)」と言って背を向けて駅までの道のりを歩いていく。

すぐ隣の駅前の大通りをメインストリートにして行われるお祭りはたくさんの屋台が並ぶはずで。その中に必ずあるであろうりんご飴をお土産に頼んだわたしはそのまま家の中へと戻った。


夕飯はお母さんが作っておくと言ってくれたけど、適当に食べるからと言って断った。きっと焼きそばやたこ焼きとか色んなものを買ってきてくれるだろうから、夕飯は少しお腹を満たす程度で充分だったから。

だからコンビニでおにぎりでも買ってこようかなと、さっき座ったばかりのソファーから立ち上がり、財布とスマホだけを持って家を出る。

逢魔が時、辺り一体が深い藍色と薄い青に包まれた様な不思議な感覚を作り出す。


住宅街を抜けてこの前千冬と会った交差点まで辿り着けば、ちらほらと浴衣を着た人もいて、駅までの方向には普段の数倍の人が歩いていた。

その中に混ざりわたしも歩く。と言ってもわたしの目的地はお祭り会場ではなく、数分でたどり着くコンビニエンスストア。


一緒に横断歩道を渡った女の子の足元を見れば下駄で、脳内にカランという懐かしい音が響いた。


わたしも、最後にお祭りに行った中学二年の時、浴衣を着ていたなぁ。

お母さんと一緒に浴衣を選んで、髪型も可愛く纏めてもらって⋯。

宵の口辺りに家の前で千冬を待って、迎えに来てくれた千冬と一緒にお祭りに出かけた。


その時わたしは千冬の反応ばかりを気にしてしまって、見兼ねた千冬がふはって笑いながら「浴衣、似合ってるじゃん」って言ってくれたんだ。

その時すっごく嬉しかったなぁ。


三年前の今頃を思い出しながら歩いていればもう目的地にたどり着いていて、コンビニの透明な自動ドアの向こうに見える千冬の姿にハッと意識を取り戻した。