腿の上で手を握り頭を下げたわたしに先生は「（わかった）」と頷く。
「（この前は聞かなかったけど、六花ちゃんにとって夏祭りは特別なのかな？）」
怒るでも落ち込むでもない先生は本当にただ良かれと思って誘ってくれていた様で。
「小さい頃から毎年幼なじみと行っていたので、このお祭りは彼としか行きたくないって思っちゃうんです」
「（⋯⋯嗚呼、例の好きな子？）」
「はい⋯」
「（そっかそっか。なら余計なお世話だよね）」
「そんな事はないです、けど⋯」
「（⋯彼を誘ってはみないの？）」
そう言われ、全くその発想が自分になかった事に気付いた。
「誘いはしない⋯ですかね」
「（どうして？）」
誘ってもきっと千冬は来てくれないだろうし、そもそも夏祭り一緒に行こうよと伝える勇気がまだない事を口にすれば先生は軽く頷きながらもどこか納得出来ない様な表情を浮かべる。
「（彼も案外、六花ちゃんと行きたいって思ってたりするかもよ？）」
「っそんなこと⋯、」
「（青春だなぁ）」
懐かしそうに呟いて笑う先生にも、誰かを誘いたくて誘えなかった過去があるのだろうか。
先生はそれを過去として捉えられるけれど、数年後もわたしは夏が来る度に千冬とお祭りに行きたかった事を思い出しては行けなかった悔いをいつまでもいつまでも引き摺ってしまいそうな気がする。
「（彼と花火、見れるといいね）」
先生の言葉に曖昧に笑って誤魔化すわたしは今年もまた、一人きりのお祭りの夜を過ごすのだろう。
