夏休み中は数回優愛と遊んだり、家族で旅行に行ったり、海人先生に勉強を教えてもらったりと、充実した日々を過ごしていて。
長いように思えた夏休みももう後半戦に入っていた。
「(やっぱり六花ちゃんは今年も夏祭り行かないの?)」
冷房の効いた部屋で「(少し休憩しようか)」とノートを閉じた海斗先生が言う。
夏祭りはもう明日に迫っていた。
「⋯⋯行かない、です」
「(実は一緒に行こうって言ってた友達にこの夏彼女が出来ちゃってさ、俺予定なくなっちゃって)」
「⋯そうなんですか?」
「(だからもし六花ちゃんが良ければ、少し遊びに行ってみない?)」
海人先生の銀縁眼鏡の奥の目が緩やかに弧を描く。
「(無理に⋯とは言わないけど、好きなもの奢るからいっぱい遊んで食べたり。楽しそうじゃない?)」
「⋯楽しそう、ですね」
「(でしょ?⋯⋯ほら、課外授業って事で。夏休み中も勉強沢山頑張ったしご褒美も兼ねてさ)」
海人先生はとても優しいと思う。
勉強で躓いてしまったら分かるまで何度も丁寧に教えてくれるし、勉強だけじゃなくて手話も教えてくれるし。
穏やかな先生と話すのは落ち着くし楽しいと思う。
家庭教師というよりも、友達っぽくて、それよりもお兄ちゃんみたいで。先生も妹の様に良くしてくれる。
「⋯⋯ごめんなさい」
だけどやっぱり、毎年開催される夏祭り兼花火大会はわたしにとって特別で。千冬と行きたいと思う。
千冬と花火を見たいと思ってしまうんだ。



