透明を編む 【完結】




そんな思いを抱えながら夏休み前半を過ごし、夏休みも後半に入った今日は久しぶりに優愛と会う約束をしていた。

少し外を歩いただけで汗ばむ酷暑の中、優愛とカフェに入る。

カフェオレのグラスに入った大きな氷をストローでかき混ぜれば清涼感のある音が気持ちよくて。


「(六花、元気にしてた?)」

「もちろん元気だよ。優愛は? 」

「(わたしも元気。彼氏も出来たし)」


そう言いながら優愛は両手の人差し指を左右から下ろして胸の前で交差させた後、右手の人差し指で“人”の文字を空書し“恋人”の手話を作る。
その表情はとても嬉しそうで幸せそうだ。


「わっ、おめでとう!どんな人なの?」

「(学校の後輩。年下なんてーって思ってたけど、まんまと好きになっちゃって)」

「優愛、すっごくニコニコしてる」

「(やだ、恥ずかしいから言わないでよ。でも、うん。今すっごく楽しいよ)」


肩の長さの髪の毛を揺らし話す優愛は去年の今頃、当時付き合っていた彼氏に浮気された過去があった。
その時の優愛の落ち込み具合と何も力になれなかったわたしを思い出して、今幸せそうに笑う優愛にわたしまで嬉しくなった。

優愛を大切にしてくれる人がいる事。

優愛が幸せそうに笑ってくれる事。

それがとても、嬉しかった。


それから優愛と彼との馴れ初めを聞いたり写真を見せてもらったりしていると、ふいに優愛が口を閉ざしてわたしを見つめるから、首を傾げる。


「(六花はどうなの?)」

「どうって⋯、」

「(有馬くんとは相変わらず⋯な感じ? )」


⋯⋯優愛の話だけで終わりたかったけれどそうはいかないみたいだ。

仲直りが出来たわたけじゃないし、わたしが嫌われている事には変わりないからあまり千冬の話題は避けたかったのだけど⋯。

でもやっぱり同じくらい聞いて欲しい事もいっぱいあって。


「(実はね─────、)」


同じクラスになった事、たまに言葉を交わしてくれる事。そして夏休み前の、あの出来事を話した。