透明を編む 【完結】



聴力を失って今年の冬で三年。

最初の頃は音のない世界に違和感しかなかったし、上手く人とコミュニケーションを取れずに苦しんだ時期もあった。

日常生活でも大変なことばかりだったし、何より音のない世界というのはとても怖かった。

だけど今ではいつまでも負の感情に苛まれていてもどうしようもないと思える様になって、音のない透明な日常を受け入れられるようになってきた。

それはお父さんやお母さん家族のおかげでもあるし、わたしの大好きで大切な人のおかげでもある。


そんな事を考えていれば最後のトーストを焼き終えたお母さんが着席して、わたし達三人は同時に手を合わせて「いただきます」をした。
朝食を食べ終えて自分の食器をシンクへと運び、歯磨きをして髪の毛を整えればもう家を出る時刻で。

少し前に家を出たお父さんと同じようにお母さんに「いってきます!」と告げて玄関を出る。

今日から始まる新学期、わたしは高校二年生になった。