なんとかノートを提出し終えて、鞄を取りに教室まで戻る途中、音楽室の前を通った時。半分ほど開いていたドアの隙間から見えた人影に思わず足を止めた。

千冬だ⋯⋯。

音楽室の窓の縁に背を預ける様にして腰掛けている千冬は眠っているのか、その瞳は閉じている。

今日午後から姿が見当たらないと思ったらこんな所でサボっていたなんて⋯。と思いながら、ドアの入口から千冬の事を見つめた。

端正な顔立ちは、眠っていると僅かに幼さが増している様に思える。

西日がその顔を照らして長いまつ毛が白い肌に影を作り出す様はまるでどこかの有名な絵画の様で。

千冬に引き寄せられる様にして音楽室へと足を踏み入れた。

美術か音楽かの選択授業でわたしは美術を選択しているから普段音楽室に入る事は滅多になくて、その上数歩先には寝ている千冬がいるせいで妙に緊張してしまう。
ゆっくり、ゆっくりと上履きを履いている足を動かして千冬に近付いていき、目の前まで来た時、まるでタイミングを見計らったかの様に千冬の瞳が開いた。


「っ!」


パチリと目が合ってしまって、慌てて一歩後退るわたしに寝ぼけ眼だった千冬の瞳が徐々に目覚めていき─────、


「(⋯何してんの?)」


眉間に寄った皺は、明らかにこの状況を不審がっていた。

それはそうだ。いきなり目の前にわたしがいたら驚くだろうし、何なんだって思うだろう。