私には聴覚障害がある。

約三年前、中学二年の時に起きた交通事故で私は両耳の聴力をほとんど失った。

聴覚障害を持つわたしがどれくらいの音が聴こえるのかというと、辛うじて地下鉄の走行音がやっと聞こえるくらいで人の話し声はわたしの世界には入って来てはくれない。


世の中には補聴器という物があるけどわたしの場合補聴器をつけてもあまりその効果はなかった。

というのも補聴器をつけても言葉を聞き取る事が難しいのだ。

一つ一つの音が独立して聞こえるのではなくて周りの全ての音が混ざって聞こえて、雑音の様に聞こえてしまうから。

人の話し声を拾おうと頑張ってみても、言葉を聞き取れるどころか全ての音がハウリングした様に混ざって聞こえてどれが周りの音でどれが人の声なのかも区別がつかない。

その混ざった音も水の中で聞いているみたいにぼんやりとしていて、補聴器をつけてもその効果はあまり得られなかった。


だから私はあまり補聴器をつける事をしない。


そんなわたしがどうやって人とのコミュニケーションを取るのかというと⋯⋯。


まず、発声について。
わたしの場合は中途失聴者という部類に入るらしい。
これは音声言語獲得後に聴力を失った人のことを指し、個人差はあるものの、三年前まで人の言葉を聞き、話していたわたしは発音や話すことには苦労はしないのだ。

といっても発音などに関しては時間が経つに連れて鈍っていく事もあるらしいけれど。


ただ言葉を発するという行為、これはわたしから発するもので、人の言葉を理解するという点においては中途失聴者というのはあまり関係がない。

人の言葉を理解するには、⋯例えば手話という方法がある。

だけど手話というのは想像よりも習得が難しくて、わたしは未だに習得するのに苦労している。
それでも少しの会話なら手話を使ってコミュニケーションを取る事は時々あるけど、わたしが一番頻繁に使う手段。それは、<読唇術>だ。

読唇術とはその名の通り、人が喋る唇の動きを見て言葉を読み取る技術で、わたしにはこの読唇術が一番合っている為八割はこの方法を使っている。残りの二割は手話と筆談だ。