「あ、あんまり、遅くまで遊ぶのはダメだよ」

「(⋯⋯は?)」

「まだ高校生なんだから。それに雪乃ちゃんも心配してたし」


心配と言いながら、心のどこかでは、寂しかったのかもしれない。

どんどん離れていってしまう距離が。

わたしの知らない千冬を誰かが知っている事が、とても寂しくて、怖かったのかもしれない。


本当の気持ちを隠して“心配”というもっともらしい言葉で誤魔化したわたしの心を千冬は見透かしているんじゃないかってドキリとする程に冷たく薄ら笑った。


「(六花に関係あんの?)」

「っ」

「()こ行くとか、何するとか、誰といる、とか。六花には何の関係もねぇよ)」


寂しさと怖さに震える心は、千冬の言葉によって更に冷たさを増していく。


「(六花には関係ない)」


視界の隅で赤色が青色に変わったのが見えて、最後にもう一度そう言った千冬が目の前を通り過ぎていく。

段々と小さくなっていく千冬の背中を暫く見ていればまた信号機は赤色になって、春と夏の間の生温い風が一度頬を撫でた。


「関係ない、か⋯」


その言葉は想像よりもずっとわたしの心を傷つけて、ひんやりと体温を奪っていく。


だいぶ嫌われてるなぁ、と落ち込んで、だけど話す時だけはわたしが読み取れる様に顔を合わせてくれた。
たったそれだけの事がとても嬉しくて、些細なことかもしれないけれどわたしにとっては物凄く大きな事で。


嫌われてしまっているかもしれないし、ウザがられてしまっているかもしれないけど、千冬のそういう所に優しさを感じて好きだなぁと思ってしまう自分の単純さに胸が締め付けられた。