「またよろしくお願いします」
「(じゃあまた、三日後に)」
「またね」と軽く手を振った先生にわたしも手を振り返して、踵を返そうと後ろを向いた時─────、
「千冬⋯」
丁度、千冬と鉢合わせてしまった。
千冬のお家はわたしの家より奥にある高級住宅地で、今までもこうして家から街へ向かう千冬とこの交差点で鉢合わせる事は度々あった。
でも、避けられる様になってからは千冬の冷たい瞳に怯んでしまい声を掛ける事を出来ずにいた⋯けど。
同じクラスになって接点を再び持つ事が出来た今、千冬にもう一度近づきたいという気持ちがムクムクとわたしの勇気を奮い立たせていく。
自宅の方から歩いてきた千冬はこれからどこかへ出掛けるのだろうか?
丁度赤色に変わった信号はまだ終わらない。
「これからっ、どこか行くの?」
わたしの声に気付いてるはずの千冬の瞳は真っ直ぐ前を向いたまま動かない。それでも、諦めたくなかった。
「友達と、遊びに行くとか?」
「⋯⋯晩ごはん食べに行く、とか?」
「それともっ、で、⋯デートだったり⋯?」
反応を示してくれない千冬に焦り一人喋るわたし。
千冬に彼女がいるかどうかなんて知らないけれど、最後の質問は自分で言って落ち込むなぁ、と後悔した。
ガラの悪そうな、と言ったら失礼かもしれないけれど、学校の派手な人達とも交流のあるらしい千冬は夜遅くまで遊び歩いてるのだと、雪乃ちゃんから少し前に聞いた事がある。
ちなみに雪乃ちゃんというのは千冬のお母さんで、小さい頃からわたしも良くしてもらっているし、耳が聞こえなくなってからも変わらず接してくれてる。
たまに家に来てお母さんとお茶をしたりする雪乃ちゃんとはわたしもちょくちょく会っていて、少し前に会った時に「朝帰りもするから心配」だって言っていた。
でも千冬のお父さんの千鶴さんも昔は結構遊んでいたから男の子はどうしようもないねって、笑っていたのを思い出す。
千冬の交友関係に口を出すつもりはないし、男の子だから女の子程危なくはないっていうのも分かっている。だけど、夜遅くまでとか、朝帰りとか、そういう単語を聞くと心配になってしまうんだ。



