透明を編む 【完結】



新学期が始まって数週間。

桜の花びらは完全に姿を消し、葉が緑色に色付き始めていた。

緑陰の上を歩けば、ゆらゆらと風に揺れる陰がまるで踊っている様に見えて朗らかな気持ちになりながら家路を歩く。

今日は家庭教師の先生が来る日だった。




家につき、自室で家庭教師の海人(かいと)先生に勉強を教えてもらう。


「(それじゃあ六花ちゃん。始めようか)」

「はい」

「(じゃあまずはこの間の復習と⋯⋯学校の授業のノートも見せてくれる?)」


海人先生は学校の授業だけでは理解出来なかった所をより詳しく丁寧に教えてくれたり、予習や復習を指導してくれる。

将来ろう者の人の支援をする仕事に就きたいらしい先生は手話も出来るし、ろう者に対しての理解も深く、それでいて大学三年生という歳の近さと彼特有の柔らかい雰囲気に家庭教師になってくれた後すぐに打ち解ける事が出来た。

手話を習得している海人先生に授業後、時間がある時は手話を教えてもらったりもしていて、一言で家庭教師と呼ぶには勿体ないくらい先生にはお世話になっている。



「(────それじゃあ今日の授業はここまで)」

「ありがとうございました」

「(最近は前よりも授業についていけてるみたいだし、予習復習もしっかり出来てるね)」

「本当ですかっ?」

「(うん。六花ちゃんは飲み込みも早いし、理解力もある。二年になって躓いてしまうかなって心配してたけどこれなら安心だね。ご両親にも良い報告が出来そうだよ)」


「頑張ってるね、えらい」と先生は褒めてくれるけど、これもそれも先生の教え方が上手だからだ。

実際に学校の授業で分からなかった所も先生に聞けばすぐに理解出来る。

キッチンで夕飯の支度をしていたお母さんに一声掛けて先生が家を出る。わたしはすぐそこの交差点まで送るというのがルーティンになっていて、今日も交差点まで先生を見送る為、一緒に家を出る。