「(それにしても六花も高校二年生になったんだなぁ。子どもの成長は早いなぁ)」
「お父さん、それ毎年言ってるよ」
「(うっ、)」
わたしが誕生日を迎える度、進級する度に同じ台詞を口にしてはしみじみと涙を浮かべるお父さんは自他ともに認める涙脆さで。
だけど、そんなお父さんはわたしの耳の事では一度も涙を流さない。
もしかしたらわたしの知らない所でこっそり涙した日もあるのかもしれないけど、いつもは映画とかでもすぐに泣いてしまうお父さんがわたしの前で涙を見せなかった事がとても心強かった。
お父さんが泣かないなら、きっと大丈夫だ。って思えて勇気づけられたんだ。
「お父さん、ありがとう」
「(⋯ん、なんの事だ?)」
「本当にお父さんには色々と助けられてるよ。ありがとうございます」
なんだか急に感謝を伝えたくなって、だけど少し照れくさくなってぎこちなく敬語を使えばこの家の太陽の様なお父さんの笑顔が弾けて、その後更に瞳にいっぱいの涙を滲ませるからそれを見たお母さんは呆れた様に笑っていた。
夕食を食べ終えて自室に戻り、今日の復習をする。
家庭教師をつけているとはいえ、予習復習は欠かせないからだ。
暫く勉強をしていれば一つあくびが溢れて時計を見れば十二時を回っていた。
「明日はもっと話せるかな⋯」
そろそろ寝なければと勉強道具を仕舞い、ベッドに潜って考えるのは千冬のことで。
もう一度優しい声で名前を呼んでほしい。
たとえそれが聞こえなくても、わたしはまた、あの頃の様に千冬に名前を呼んで欲しい。
そしてまた、笑った顔をわたしに向けて欲しい。
千冬に避けられる様になった日からずっと願っている事を想いながら眠りについた。



