「(学校はどうだった?)」
夕食時、お母さんがそう言ったのを見てわたしは笑顔を作る。
「上手くやっていけそうだよ」
「(友達は出来た?)」
「それは⋯まだだけど⋯」
「(そっか。でもまぁ、何事も焦る必要はないからね)」
「うん。ありがとう」
高校に入って未だにわたしは友達を作れていない。
ろう学校ではなく一般的な学校に入学した為、周りは健常者ばかりで、手を貸してくれたり、理解をしようとしてくれたりはするけれどやはりそこには一枚の壁があるというか。
わたし自身も新しく聴者の人と友達になるまでの一歩を踏み出せずにいて、“友達”と呼べる存在になるまでの関係を築けていないのが現実だ。
だからわたしには友達と呼べる存在は二人しかいない。
その二人とは、中学からの親友の優愛と、千冬。
千冬に関しては友達だと今は胸を張って言えないかもしれないけど、わたしは友達だって思いたいから。
⋯⋯わたしの耳がまだ音を拾えていた頃の友達は優愛を除いてほとんどが疎遠になってしまった。
みんな優しくしてくれたり理解しようとはしてくれたけど、やっぱりそれまで通りには戻れなくて、事故に遭って耳が聞こえなくなってしまった直後のわたしは塞ぎ込んでいた事もあって、段々とわたしの周りから人が離れていった。
そんな中で変わらない態度で接してくれたのが優愛だった。優愛や両親や千冬がいたから、わたしは塞ぎ込んで音も光も届かなかった場所からようやく光を見つけ出す事が出来たんだ。
優愛とは別々の高校になってしまい今はなかなか会う機会が減ってしまったけど今でもちょこちょこ連絡を取り合っている。



