ヨルク・ロイターが宰相になったけれど、彼は表立っても水面下でも何の動きもみせなかった。
 というのも、自邸で行われたパーティの為に雇った給仕人たちが、じつは他国の諜報員だったからである。しかも、諜報員たちは皇妃を攫おうとした。わたしを攫おうとしたところを、皇帝がみずから阻止したのである。

 ヨルクが結託していたのか、あるいはそのたくらみを知っていて素知らぬふりをしたのかどうかはわからない。けれど、いずれにせよロイター公爵家はいい恥さらしであることにかわりはない。そういうこともあり、しばらくの間はヨルクもおとなしくせざるをえない。