てっきりロイター公爵家の屋敷の二階に向かうのかとばかり思っていた。

 寝室は、たいてい二階にあるものだからである。

 が、執事はテラスから庭園を横切ってスタスタと歩き続けている。だから、どんどん屋敷から離れていく。

 ああ、やはり罠だったのね。

 こんな夜にこんな広い庭園に人気があるわけがない。

 屋敷の灯りは見えてはいる。だけど、ここで襲われたとして、大声を上げてきこえるかどうか自信がない。

 これまで全力で叫んだことがないから、自分の声量がどれほどのものか想像もつかない。