「やめないか、おまえたち。行くぞ」

 ラインハルトは、そう言い捨てるとわたしたちに背を向けた。

 その瞬間、彼がわたしに視線を走らせてきた。だから、口の端を上げて「心配しないで」と合図を送っておいた。

「ゾフィ、いつもみたいに妃殿下を泣かすなよ」
「おいおい、ジーク。それは、きみの妻のリタのことだろう? リタ、妃殿下を虐めるなよ」
「なんだと、シュッツ」
「怒鳴るなよ、ジーク。人間(ひと)は、ほんとうのことを指摘されるとすぐに怒鳴るって知っているか?」
「こいつ、おれの妻を侮辱しやがって」
「きみの妻ではない。きみを侮辱しているつもりなんだがね」