月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。


《礼も兼ねてこの魔道具にここの座標を追加しよう》

「え?」

 ティナが気づいた時にはもう、魔道具はルーアシェイアの手の中で光に包まれていた。

「……すごい。術式が書き変わっていってる……こんなことが可能だなんて……!」

 魔道具の変化にトールが驚愕している。
 ティナには何が起こっているのかわからないが、どうやらルーアシェイアがノアの刻んだ術式を改変しているらしい。

《奴にできて私に出来ないはずはないからな》

 ルーアシェイアはノアと張り合っているのか、何故か勝ち誇った顔をしている。

《ほら、完成だ。思い浮かべれば、どちらかに転移出来るようにしておいたぞ》

「えっ?! 本当ですか?! うわぁ……! 有り難うございます!!」

 ティナは大喜びでルーアシェイアにお礼を言った。
 この大精霊の湖までは遠すぎて、なかなか訪れることが出来ないことを残念に思っていたのだ。

《またいつでも遊びにおいで》

 ルーアシェイアの声はどこまでも優しくて、まるで母親のようだ、とティナは思う。
 またいつでも会えるとわかっていても、寂しさが一筋の風のように、ティナの胸を通り抜けていく。

 そんなティナの寂しく思う気持ちを感じ取ったのか、トールがぎゅっとティナの手を握りしめてくれた。
 その手の温もりと感触にティナの心から、寂しいと思う気持ちがすぅっと消えていく。
 
「──っ、はい! 必ず!!」

 ティナは満面の笑みで、ルーアシェイアと再会の約束を交わす。
 屈託ないティナの笑顔は太陽が落とした光のように、キラキラと輝いていた。