月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 魔道具やアデラとの会話ですっかり忘れてしまっていたのは、自分の失態だろう。

「アウルムはどうして精霊が見えるの? 生まれた時から見えていたの?」

『わかんないー。初めから見えたのー。でも黒いの来てから見えなくなってたのー』

「あっ……」

 ティナはアウルムが住んでいた森に、誰かが瘴気を撒いたという話を思い出した。
 もしかするとこの先、その人物と鉢合う可能性があるのだ。

「そう言えば、黒いのを撒いた人って、顔を覚えてる?」

『うーん、わかんないー。でも匂いはわかるよー』

「本当?! 近くに来たらわかるかな?」

『わかるよー。教えてあげるねー』

「うん、有難うね」

 ティナはアウルムの頭を撫でながらお礼を言った。
 アウルムのおかげで精霊に──月下草に大分近づけたのは間違いない。

(その人が誰かわからないけど、きっと碌でもないんだろうな。私も気を付けないと……!)

 何より、アウルムを守らないと、とティナは思っている。
 あの時──瘴気に塗れて倒れていたアウルムを思い出すと、今でも胸が痛むのだ。ティナはもう二度とアウルムをあんな目に合わせたくない、と強く思う。