月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 クロンクヴィスト王国が珍しい精霊信仰なのも、王国の初代国王が精霊王の祝福を受けた人間だったという経緯があったからだ。

 その事実は時の流れと共に忘れ去られ、今では御伽噺となって語り継がれている。
 実際、トールも建国神話を御伽噺か何かだと思っていた。

 しかし、トールが九歳の誕生日を迎えた時、とある存在が彼の目の前に現れた。
 そしてトールはその存在──<精霊>に、御伽噺が事実なのだと教えられたのだ。

 <精霊>とは、この世界に存在する草木や動物など、自然が作るものの一つ一つに宿る超自然的な力で、万物の根源をなしているらしい。

 精霊の見た目はふわふわと光る浮遊物で、言葉を直接頭の中に話し掛けてくる。だからトールは初めて精霊を見た時、幽霊か何かと勘違いしそうになったのだ。

 驚くトールに精霊は告げた。
 ──曰く、トールは初代国王並みに精霊との親和力が高く、今は下級精霊としか感応できないが、成長すれば上級精霊とも会話ができるだろう、と。

 トールは思いがけない事実に、最高の誕生日プレゼントだと喜んだ。