月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 やらなければ自分がやられるのだ。それにもうティナは聖女ではなく、冒険者なのだ。
 トールを殺そうとする人間に情けをかけるほど、冒険者のティナは甘くなかった。

 それからティナは盗賊たちに束縛の魔法である<ウィンクルム>を掛け、逃げられないようにすると、トールの元へと向かう。

「くそっ!! くそっ……!!」

 20人ほどいた手下たちが全員倒され、ただ一人残されたリーダーの男はどうにかして逃げられないかと、混乱しながらも思考を巡らせる。
 このまま手ぶらで帰れば、自分は容赦無く「彼の方」に処分されるだろう。ならば、せめて情報を持ち帰るしかない。

「もうお前だけだけど、どうする? 誰の命令か吐くなら、命だけは助けてやるけど?」

「黙れ黙れっ!! 命乞いするほど落ちぶれておらんわっ!!」

 逆上したリーダーの男が隠していたナイフをトール目掛けて投擲する。咄嗟に避けたトールであったが、眼鏡の縁を掠めたナイフに眼鏡が弾き飛ばされてしまう。

「──な……っ!!」

 ティナは思わず絶句する。何故なら、トールの眼鏡が弾き飛ばされる瞬間、彼の素顔が見えたからだ。

「チッ!!」