月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

 冒険者達にとっても雲の上のような存在のベルトルドに、アポイントメントもなしで面会出来るのは、世界広しといえどもクリスティナぐらいだろう。彼は王族から要請があったとしても多忙を理由に平気で拒否するのだ。

「えっと、それが……」

 クリスティナはブレンドレル魔法学院で起こった出来事を、洗いざらいベルトルドに説明した。クリスティナが説明すればするほど執務室の気温が下がっていく……ような気がする。

「ふふふ……なるほど、なるほど……。フレードリク殿下がねぇ……」

 ベルトルドは歳を感じさせない綺麗な顔で微笑んだ。それは世のご令嬢方やご婦人達を魅了しそうな笑顔だったが、クリスティナはその笑みに隠された感情を読み取り、背筋を凍らせる。

「え、えっと! そういうわけで、王妃だとか聖女だとか面倒くさいお役目から開放されまして、この度めでたく自由の身になりました!!」

 クリスティナは努めて明るく振る舞いながら、ベルトルドに自分は平気なのだと笑顔を見せる。

「……そうか。クリスティナが自由になれたのなら、お祝いしないといけないね」

 ベルトルドはクリスティナの事を荒立てたくないという気持ちを汲み取って、フレードリクに対する怒りを鎮めることにする。