光里に連れ出された絆は、バスに乗って村を離れ、駅前のホテルに入る。部屋にはベッドが二つあり、ソファとテレビ、そして小さな冷蔵庫も備え付けられている。

「光里姉……」

絆の中には不安が押し寄せていた。家事を途中で放り出し、荷物をまとめて光里とホテルにいる。こんなことを勝が知れば、怒鳴られるだけでは済まないだろう。そう考えると、絆の手が小刻みに震え始めた。

それを察したのか、光里は優しい笑みを浮かべ、絆の体を抱き締める。ふわりと金木犀のような甘い香りがした。

「大丈夫。私が絶対にあなたを守る。絆をこんな目に遭わせたクソジジイには、私とお母さんが話をつける。だから、絆はまずは自分の体を休めることを考えて。もうあの場所に戻らなくていい。絆は奴隷じゃないんだよ」

「……ありがとう、光里姉、ありがとう」

絆の目からまた止まっていたはずの涙が溢れ、流れていく。光里に優しく頭を撫でられ、ベッドに寝かされ、抱き締められた。