その日、絆とオスカルがデートをしていた時のことだった。美しい音色がどこからか聞こえ、興味を示した絆にオスカルが「行ってみようか」と声をかける。

音のする方へ行くと、そこには人だかりができていた。地元の音楽団が路上での演奏会をしているようだ。

(あっ、フレンチホルン)

美しい音色を奏でる楽器を見て、絆の胸に切なさが走る。一生懸命練習していたホルンは、半年も経たないうちに家事のためにやめることになってしまった。あの時泣いたことは、今でも絆の脳裏に焼き付いている。

「絆、どうしたの?」

オスカルに訊ねられ、絆は「ホルンを見て、思い出したことがあって」と過去のことを話す。するとオスカルに手を取られた。

「ホルンなら、よかったら俺が教えるよ?」

「えっ?フレンチホルン吹けるんですか?」

フレンチホルンは楽器の中でも難易度の高いものだ。吹ける人はそうそういない、そう絆は思っていたのだがオスカルは自信満々に言う。