「お疲れっしたー!」

直哉に続き、他のメンバーも控え室を出て行く。

サザンクロスの今日の仕事は、歌番組の収録と雑誌の取材。
歌の収録を終えたあと、つい先程まで衣装のままこの部屋でインタビューを受けていたのだ。

歌番組の共演者はもう皆帰ったらしく、廊下を歩くと他の部屋はほとんどが施錠されていて暗かった。

「おい、瞬!ちょっと」

不意に後ろから呼ぼれて、振り返る。

今までいた控え室から、チーフマネージャーの富田が手招きしていた。

スーツ姿で、いつもは周りのスタッフに笑顔で礼儀正しく接しているが、いつになく今は真剣な表情だ。

「何ですか?」
戻って来た瞬に、富田は雑誌のような本を手渡す。

「台本が上がってきた」

表紙を見ると、大きくブルーの文字で
月曜ドラマ "シュート!"
と書かれた下に、"第1話"とある。

「あ、はい。ありがとうございます」

そう言って鞄に無造作に入れ、立ち去ろうとする瞬に、富田が言う。

「なるべく早く読んでおけ」
「いや、俺、直前にガーッと覚えるタイプなんで」
その言葉に重ねるように富田が言う。
「キスシーンがある」

…なっ!?

驚いて瞬は思わず富田を振り返る。

「第1話の最後のシーンだ。しっかり読み込んで、イメージを固めておくようにと藤堂監督に言われた」

瞬は、カーッと体が熱くなるのを感じた。

「聞いてませんよ!そんなシーンがあるなんて。大体、俺、最初からドラマなんて無理だって…」
そう言って、はぁと息を吐く。

「富田さんから監督に言って下さい。台本変更してくれって」

「馬鹿野郎!そんな事出来るか!」