女性は頷いてカウンターに近づくと、胸のポケットからIDを出し、ガードマンの前に置かれた機械にピッとタッチした。

そしてカウンターに置かれた書類に、サラサラと何かを書き留めていたかと思うと、ふと明日香を振り返った。

「ごめんなさい、お名前聞いてもいいかしら?」
「あ、小池明日香です」

コイケ…アスカ…
呟きながら、女性はまたサラサラとペンを走らせる。

書き終わると、ガードマンから受け取ったものを、
「はい、これを首から掛けてくれる?」
と明日香に渡してくる。

首に掛けながら見てみると、通行許可証だった。

その後、空港の検査場にあるようなゲートをくぐり、エレベーターホールまで来ると、2人でゆっくり2台のラックを載せ、8階で降りた。

会議室のような部屋がずらっと並ぶ廊下をしばらく進むと、ドアを開け放った部屋があり、女性はそこで足を止めて明日香を振り返った。

「ここで大丈夫よ。どうもありがとう!助かったわ」
「いえ、お役に立ててよかったです」
「帰りは来た道を戻って、さっきのガードマンに通行証を返却すればいいだけだから」
「はい、分かりました」

じゃあ、と頭を下げたあと、明日香は廊下を戻り始めた。

すると後ろから、
「あ!やっぱりちょっと待って!」
女性の呼び止める声が聞こえた。