「瞬!喜べ!まだ21時だぞ!」

富田は車のハンドルを握りながら、バックミラー越しに後部座席の瞬に声をかける。

「こんな早い時間に上がれるなんてな!」
「はい…」

自分の声とは対照的に、ボソッとひとこと返す瞬に、富田は少し考えてから話しかけた。

「瞬、あの時は悪かったな」
「あの時って?」
「ほら、ドラマのクランクイン前に…」
ああ、と瞬は怒鳴られた事を思い出す。

「俺、瞬の撮影見てて分かった。瞬がどれ程の覚悟で真剣にこのドラマに向き合ってるか。なのにあの時俺、馬鹿野郎なんて怒鳴ったりして…本当に申し訳なかった」
「いや、そんな。謝らないで下さい」

あの時富田に言われなければ、自分は酷い態度で撮影にのぞんでいただろう。
富田に感謝しなければいけないと瞬は思った。

「そう言えばさ」
明るい口調に変えて、富田が言う。

「藤堂監督、お前の事褒めて下さってたぞ。期待以上だって。それで、瞬のいるサザンクロスってどんなグループなのか気になって、色んな番組を見て下さったそうだ。他のメンバーもなかなかおもしろい、いつか話を持って行くよと仰っていた」
「ほんとですか?!」

珍しく瞬が身を乗り出して聞いてくる。

「ああ。そのうち直哉にも、声をかけて下さるかもしれない。そうなるといいな」
「はい!」

急に目を輝かせた瞬に、富田は驚きつつも顔をほころばせた。