(恋…俺の。…恋?)

スタジオでスタンバイ中、瞬はまた藤堂監督の言葉を思い出していた。

今日はCMの撮影。
サザンクロスの4人が揃って、清涼飲料水を片手に、色々なポーズやセリフでアピールする。

何テイクも重ねる中、すき間時間があると、ついボーッと考えてしまう。

(大体恋ってなんだ?俺、恋なんてした事あるのか?)

中3の時と高1の時、言い寄られた女子と付き合った事がある。

どちらも向こうから声をかけてきて、学校の帰りに強引に誘われて遊びに行ったりしていた。

(いや、そもそもあれを付き合ったというのか?)

自分から好きだとか、付き合おうと言った訳でもない。
ただ向こうが、私達付き合ってるのよね?と聞いてきて、そうなのかと思った。

そしてどちらも、半年ほどで疎遠になった。
いわゆる自然消滅だった。

その後は仕事が忙しくなり、誰かと付き合うなんて事は、ここ数年全くなかった。

それなのに、撮影中の瞬を見て、監督は恋をしているなと言った。

(どういう事だ?監督は何でそう思ったんだ?)

あの時の演技って…

紗耶香役の女優の表情を見ているうちに、明日香を思い出したんだっけ。

ふと瞬は、陽子の隣で衣装を整えている明日香を見る。

どうやら陽子に教わりたい事があるのか、最近ほとんどの現場に明日香は同行していた。

今も熱心に、陽子の話に耳を傾けている。

「襟はしっかり止めておかないと、踊るとヒラヒラしちゃうの。ほら、ここをこんなふうに縫って…」

明日香は襟を触りながら、何かを呟く。
すると隣の陽子がおもしろそうに笑い出し、明日香は、ええー?と口を尖らせる。

瞬は、思考回路が止まったように、何も考えずに明日香の横顔を見つめる。

やがて明日香は、陽子と顔を見合わせて、楽しそうにふふっと笑い出した。

「おい、瞬!」

急に直哉に肩を叩かれて、驚いて振り返る。

「どうしたんだ?ボーッとして。次のテイク撮るぞ」
「あ、ごめん。すぐ行く」
「大丈夫か?さっきから何度も呼んだのに気付かないし。ドラマの撮影忙しくて寝てないのか?」
「いや、そういう訳じゃない。大丈夫だ」

まだ心配そうな直哉を、さ、行こうと促して、瞬は撮影に戻った。