「最近どうよ?秀。仕事、忙しいのか?」
「うん、まあな」

そう言って、グラスを傾けた秀は、ふと斜め向かいの席の紗耶香に目をやる。

隣の達也(たつや)と楽しそうに話をする紗耶香は、達也が何か言ったあと、えー?と言いながら拗ねたような表情をした。

(あの時の明日香も、こんな顔をしてたっけ)

陽子に笑われて、頬を膨らませていた明日香の顔を思い出す。

「はい、カットー!」

急に声が響き、瞬は我に返って瞬きをした。

(え、あ、そっか。撮影中だった)

「チェックOKでーす!」

ホッとして席を立つ瞬に、監督が近付いて来た。

「おい、瞬。お前、恋でもしてるのか?」

耳元でボソッと囁かれて、瞬はえっ?!と監督の顔を見る。

「いい顔してたぞー。ありゃ、本物だな」

ニヤッと笑ってから、ふと真顔になる。

「でも、あれだな。お前、トップアイドルだもんな。報われるのか?」

ボンッと瞬の肩を叩き、
「許されるといいな、お前の恋」

そう言って監督は片手を挙げて去っていった。