テレビ局の廊下を控え室へと歩きながら、瞬は監督の言葉を思い出していた。

これからサザンクロスの冠番組、4人が色々なゲームやトークを繰り広げる1時間番組の2本撮りだった。

他の3人は先に打ち合わせに入っており、ドラマの撮影現場からここに直行した瞬は、あとで合流することになっていた。

控え室のドアに手をかけながら、ふうとため息をつく。

(初恋、か…。そんなのあったか?俺)

と、いきなり内側からドアが開き、瞬はおでこをゴツンとぶつけた。

「いてっ!」
思わず顔をしかめると、ギャーと声がした。

「大変!ごめんなさい!顔が、アイドルの大事な顔が!」

目を開くと、明日香が瞬のおでこを覗き込むようにして手を伸ばしている。

「どこ?大丈夫?ああ、私ったら。本当にごめんなさい!赤くなってない?平気?」

あまりの顔の近さに、瞬は手で払うようにして離れる。

「大丈夫だってば!触るな!」
「なーに?何を騒いでるの?」

声が聞こえたのか、陽子が部屋から顔を覗かせる。

「陽子さん!私が、瞬くんに、ああ、ごめんなさい。ゴンって音がして…顔にぶつけちゃって…どうしよう、傷が残ったら」

明日香は手をバタバタさせながら、支離滅裂に説明する。

「だから、平気だっての!」
瞬がまた声を荒げる。

「あら、明日香ったら瞬の顔に傷作ったの?じゃあ責任取って、お婿さんにしないとね」
「な、何言って…」
瞬は陽子の言葉に絶句する。

「私もさ、子どもの頃、隣の家の完ちゃんに顔引っかかれて傷になってさ。このせいで嫁に行けなかったら、責任取ってもらってやる、なんて言ってたのに、全く音沙汰なくて…あれ?瞬。どうしたの?顔、真っ赤よ」

陽子に言われて、瞬はますますカッと顔が熱くなるのが分かった。

「えっ?!やっぱり私がぶつけたから…どうしよう、大変」
そう言って、また瞬の顔を触ろうとする明日香を払いのける。
「大丈夫だってーの!」

瞬は1人部屋に入って行き、ドアを乱暴にバタンと閉めた。

「ああ、やっぱり冷した方がいいかな…」
「大丈夫じゃなーい?ま、ちょっと頭はのぼせてるかもしれないけどねー」

陽子は意味ありげにそう言ったが、明日香はますます心配そうな顔をした。