「おーい、ホームルーム始めるぞー」

先生が入って来て、ようやく佳奈は涙をぬぐい席に戻った。

先生が話し始めても、明日香の頭の中は、佳奈の言葉がグルグル回っている。

(瞬が…キスを…いつの間にか顔を寄せて…ごく自然に…)

どう考えてもあの日の事が結びつく。

あの日…不意に瞬にキスをされた明日香は、何が起こったのか理解出来ずにしばらく固まっていた。

すると、慌てて瞬が謝り始めた。
恐らく瞬も、そんな事をするつもりはなかったのだろう。
自分で自分のやった事に驚いているようだった。

(事故みたいなもんだよね)

そう思い、それから瞬に会っても、明日香は普通に接していた。
瞬も相変わらずのそっけない態度だった。

いつしか、あの日の事は幻だったのでは？と思い始め、1ヶ月経った頃にはすっかり頭の中から消えていた。

なのに…
佳奈の言葉で一気に記憶が蘇った明日香は、また頭の中が混乱し始めて気が重くなった。