俺が言うことをよく聞けと言うように、俺の視線から逃げるなと言うように。


 茶化すことは許さないと言うように。


 私が感じてる、心地いいようでむず痒い矛盾なんて知らないだろう青葉薫は、両手で私の頬をすっぽり覆って口を開いた。


「かっこつけるとか、姫だからとか。そんなんじゃない」


 降ってくる眼差しは、いつになく真剣で重たい。



「お前は俺にとって大事なやつになったから。ただそれだけ」



 残っていた恐怖心、募っていく罪悪感。


 青葉薫が視界に入ったときの安心感、私を大事だと言ってくれる喜び。


 必死に探してくれている仲間への感謝。勝手な行動をしたことへの後悔。


 いろんな感情がごちゃ混ぜになって、瞳がじわじわと濡れていく。


 短い間に私の性格をよく理解した青葉薫は、私の顔から視線を外して優しさを与えてくれた。


「怖い思いをさせて悪かった」


 二度目の強い抱擁(ほうよう)に私の体温が上昇したのは……青葉薫の身体が熱かったからに違いない。