「ゆり、今度の試合、どこの国になった?」
アイスリンクで自主練中に舞斗がいきなり話しかけてきた。
「あ〜私は、アメリカだったよ。久しぶりのグランプリシリーズだから楽しみだな〜」
グランプリシリーズというのは、6カ国で開催され、その6試合で上位6位になった選手がグランプリファイナルに出場できる試合のことである。
この試合に出ることができるのは、選ばれた選手のみだった。
舞斗は、毎年出場しているが、私は、怪我の影響もあり2年間出場していなかった。
「舞斗は、どこの国だったの?」
「俺もアメリカだったわ。ゆりと同じ国で良かった。」
彼は、こういうことを平気で口に出してくる。
彼が紡ぎ出す思わせぶりな言動に一喜一憂する私に嫌気が差す。
世の中の女性も彼の言葉に一喜一憂しているのだろうか。
そう思うと、腹が立ち、こう言い返した。
「私も舞斗と同じ試合に出られて嬉しいよ。成績でも舞斗に負けないんだから!!!」
「ははは。ってことは、金メダル獲るしかないよ?」
彼は、冗談混じりに意地悪なことを言ってきたが、事実だから笑えない。
「ごもっともです。」
「ははは。やっぱりゆりといると面白いわ。久しぶりに笑ったわ。」
彼が満面の笑みでそう話した。
「そういえば、世界ジュニアでもこんな会話したことある気がする。」
今から8年前に開催された世界ジュニア選手権大会。この大会は、世界選手権のジュニア大会で国内からは、私と舞斗の二人が選出されていた。
当時からジュニアグランプリファイナルなど世界大会でも次々と優勝するなど頭角を表していた彼に比べ、
私は、国内大会での優勝のみにとどまっていた。
「ゆり、どうしたんだ?緊張してるのか?」
国際大会に出場するのが初めてだった私は、緊張に押し潰されそうになっていた。
そんな中わざわざ彼が控え室まで来てくれた。
「舞斗!やばい。緊張しすぎて演技できそうにない。」
私は、今にも泣き出しそうになりながら彼に助けを求めた。
「ゆり、何言ってんだよ。お前は、世界ジュニアに出ることができるんだ。世界ジュニアに出れない人間もたくさん、いる中でお前は、出れたんだよ。自分に自信持てよ!あと昨日俺は、金メダル獲ったからな。俺に勝ちたいだろ?金メダル獲れよ、絶対!」
彼は、物凄く鋭い目をしながら私を励ましてくれた。
コーチの先生や関係者の方がかけてくれたどんな優しい言葉よりも彼がかけてくれた少し厳しい言葉が私には、響いた。
彼に鼓舞され、演技をした私は、なんと世界ジュニアで優勝することができた。
正直、彼以外の人が同じ言葉をかけていたら、わたしは、こんなに頑張れていなかったと思う。
彼は、いつも私よりもずっと先を走り続けてくれて、私を導いてくれる人だ。