「舞斗!オリンピック2連覇おめでとう。」
「ゆり、ありがとう。」
彼は、いつも目の奥が笑っていない孤独そうな表情を浮かべる人だった。
私の名前は、山本ゆり、23歳。
フィギュアスケート選手をしている。
彼は、五十嵐舞斗。
私と同じくフィギュアスケート選手をしている。
彼の名前を国内で知らない人は、いない。
オリンピック2連覇することなどほとんどないフィギュアスケートという競技でオリンピック2連覇という偉業を成し遂げた。
誰もが羨む偉業を成し遂げた彼だが、
何故だか浮かない表情を浮かべている。
そういえば、初めて会った日の彼もそうだった。
自分以外の誰も信じていないような孤独な目をしていた。
「みんな!今日から一緒に練習することになった五十嵐舞斗くんです。みんな仲良くしてあげてね。」
私たちが8歳の時、私が所属していたクラブに移籍してきたのが舞斗だった。
「じゃあ、舞斗くんご挨拶しようか。」
先生の呼びかけに下を向いていた彼が話し始めた。
「いがらし…まいとです。よろしくオネガイシマス。」
彼は、俯きながら聞こえるギリギリの声で挨拶したのを今でも鮮明に覚えている。
無愛想な彼の目の奥の孤独さは、8歳の私にも伝わる程だった。
当時の私は、なんて感じの悪い奴なんだろうと思ったが、
のちに私は、
当時の彼が何故そんなに自分以外の人を信じていなかったのかを知ることとなる。