十二月一日、この日は医者の大岩拓海(おおいわたくみ)にとって最悪な運命の日である。朝、いつもは何度も妻の亜美(あみ)に起こされてようやく起きるというのに、この日だけは違う。三年前から拓海はこの日だけ、早起きなのだ。

まだ薄暗い中、拓海は父に建ててもらった家のドアを開け、ポストへと向かう。そこには新聞が入れられていた。それを手にリビングへと戻った拓海は、額に冬だというのに汗を浮かべながら新聞をめくっていく。

静かなリビングに新聞をめくる音だけが響く。しばらくして新聞を一通り読み終えた後、拓海はフウッと息を吐いた。

「……よかった、あいつの事件はどこにも載ってない」

ホッと拓海が安堵した刹那、リビングが明るくなる。起きてきた亜美が電気をつけたのだ。そして、拓海を見て「あら、珍しい」と呟く。拓海は笑みを浮かべ、亜美に近付く。

「おはよう、亜美」

「おはよう、拓海」

二人の唇がゆっくりと近付き、優しく触れ合う。拓海は何度も亜美の唇を求め、まだ朝だというのにリビングには甘い空気が漂っていた。