「総長代理に族を任せた後――女性誌でたくさん研究した甲斐あって、俺は真白になりきることが出来た。皆に簡単に見破られまいと思っていたけど、まさか今日まで隠せるとは思わなかったよ」

「俺は薄々気づいてたけど」

「はいはい。でもね――」




俺はチラリと、伊織を見る。いや、伊織の「方を」見る。


そう、俺が見ているのは伊織じゃない。


伊織の後ろの、木陰に隠れている女の子。




「でもね、君に見破られなかったのが俺は何より嬉しいよ――美月」




その子は、俺がずっと探し続けていた子。

大事で大切な、唯一無二の愛しい子。



「は……?美月?」



生吹は驚いた目で彼女を見た。まるで、もう会えないのに会えたと言わんばかりの驚きよう――そんな生吹の顔を見て、思わず自分と重ねてしまう。


そうか、お前も……覚悟を持って今日ここに来たんだな。俺と同じように。



「……っ」

「……そんな顔をするくらいなら、隣に行ってあげたら?」



余計な一言と分かっていながら、生吹に言った。するとヤツは「チッ」と舌打ちをして、俺を睨む。



「さっき、俺に美月を見つけさせないために、わざと蹴りを入れたな?」

「もちろん」




『俺の話を聞くってんなら、よそ見するんじゃない。そして一字一句、聞き逃すな』




「美月が見つかってほしくなさそうにしていたからね。俺はいつだって、美月の味方をするよ」

「……ほんと、気にいらない」



生吹が吐き捨てるようにそう言った時――同時に、美月も口を開く。


出てきたのは、俺の名前。




「純弥、先輩……っ」


「――うん」




涙を流して座り込む美月。


そんな彼女を見て、俺の涙腺も僅かに緩んだ。