パクッ



「うん、美味しい。俺の好きな味」

「よ、よかッ、」


生吹くんは私に「良かった」と、素直に安堵させてくれるつもりは無いらしい。

ニヤリと意地悪に笑って、唇をペロリと舐めた。



「まさか、あーん、してくれるとはね」

「ッ!」

「ごちそうさま、美月」

「は、はは、はぃ……っ」

「ふっ」



生吹くんの黒い瞳がスゥと細められ、私を見つめる瞳がとても優しくなる。

見つめられるのは慣れないし、恥ずかしい。けど、この空気を居心地悪いとは思えなくて……戸惑う。



「(私、生吹くんの事を考えると心が忙しくなる。なんでだろ……っ)」



だけど、さっきのは流石に恥ずかしかった。

だって、よくよく考えたら――

別に「あーん」じゃなくても、生吹くんに直接取ってもらえばよかったんだ。フェンスの穴は大きいから、生吹くんの腕だって通ったはずだよ……。



「す、すみません、私……」

「ん?なんで謝るの?」



昨日と同じようにキョトンとした生吹くん。

ずった笑ってくれてるところを見ると、嫌じゃなかったのかな?昨日会ったばかりの人に「あーん」されるなんて……。



「い、以後、気をつけます……」

「何に気をつけるか知らないけど、いいよ。今の美月のままで」

「ッ!」

「俺は、今の美月のままがいい」



今の私のままでいい――

その言葉が胸にストンと落ちてくる。

そして、まるでカイロのようにホカホカと熱を発し、心が温かくなった。



「(生吹くん……っ)」



ドクンッ