「美月」



前、Lunaから私を助けるために振ってくれた力強い腕が、私に伸びる。



「(あ、抱きしめられる……っ)」



そう思った、次の瞬間だった。



「美月さーん!!お待たせしました!お弁当を忘れていまして、ごめんなさい!

でも、どうにか間に合いそうですね!走りましょう!」

「え、あ、汰生さん……!」



忘れ物を取りに帰ってきた汰生さんが、私の腕を握って走り出す。その速さは尋常じゃなくて、速すぎて足がもつれて転びそうだった。



「い、生吹くん、」



それだけ言うのが精一杯で、引っ張られながらも生吹くんを見る。

だけど同時に後ろを見た汰生さんが重なって、生吹くんは見えなくて……。



「あ、生吹!俺のいない間、美月さんと一緒に居てくれて助かった!

ここからは俺に任せてねー!」



そう言ってビュンと更に加速するものだから、私は前を向くことしか出来なくなった。


だから、分からなかった。


校門から中に入ることの出来ない生吹くんが、去っていく私を見て、



「あぁ〜もう……!」



赤い顔のまま髪をグシャっと崩して、その場に座り込んだ。


そして、



「やっぱズルいよなぁ。高校が同じって」



と羨んで呟いたなんて。私は、知る由もなかったのだった。