「ところでクレア。今日は何の用で呼ばれたのかしら?私」
 
カップをテーブルに置きながら聞くと、クレアは、ああと思い出したように手を合わせた。

「今朝、旦那様が坊ちゃまに尋ねたんです。美桜様はいつ帰国なさるのかと。明後日の夜の便だと聞くと、そんなにすぐに?とそれはそれは驚かれて。まだ夕食にもご招待していないではないかと。それで慌てて、今日にでもお越し頂けないかとご連絡差し上げたのですわ」
「そうだったのね」

何か重大なお話でもされるのでは、と身構えていた美桜は、どうやらそうではないらしいと分かってほっとした。

「でもそんなにお気遣い頂かなくてもいいのに。私、お客様ではなくて単なるアレンの友人ってだけだから、逆に恐縮しちゃう」
 
するとクレアは、なぜか含み笑いのような表情を浮かべた。

「美桜様が気にされることはないですわ。旦那様が、お客様をおもてなししなくては、と仰るのは、今回ばかりは建前でしょうから」
 
え?どういうこと?と美桜が怪訝そうにすると、さあ!夕食までは私がお相手致しますわね、とはぐらかされた。

「時間はたっぷりありますわ。今日はパレスのあちこちまでご案内致します」