桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

 「うーむ…」
 
 目を通していた書類を机に置くと、ジョージ・グレイ・ウォーリングは椅子の背もたれに体を預けて腕を組んだ。

 そばに立って父の様子を見ていたアレンは、背筋を伸ばして身構える。

 何を言われるかは分かっていた。

 「アレン、これではダメだ。いいか、我がウォーリング家が昔から大事にしてきた二年に一度の式典だぞ。各国からお客様をお招きするのだ。華々しく、明るいイベントでなくてはいけない。なのにお前のこの企画書は、まるで年間の業務報告のようだ。決してお客様に喜んで頂けるものではないぞ」
 「はい。仰る通りです」

 アレンは、かしこまって言う。
 たとえ家族であっても、いや家族だからこそ、仕事中の言葉使いには気を付けろと父に常日頃言われている。

 パレスの二階にある書斎には、アレンとジョージ、グレッグの三人しかいない。

 たいがいその三人で仕事をするのだが、それでも決して気を抜いてはいけない、と。

 「父上、企画内容は改めて考え直します。ですが、式典まであと四か月足らず。そろそろ準備に取り掛からなければいけないのも事実かと思います」
 「うむ、だが内容がはっきり決まっていないのに何を準備すると言うのか?」
 「確かにその通りです。ひとつご提案なのですが、式典の日程を遅らせるというのは?」
 「それはいかん。代々式典は五月一日と決まっておる。お客様もそのつもりで日程を調整して下さっているのだぞ。招待状ももう発送する時期だろう?グレッグ」
 
 ふいに話を振られたが、入口付近の机で庶務をしていたグレッグは、もちろん常に耳は二人を意識しており、すぐに返事をする。

 「はい。いつでも発送出来ます」
 
 ジョージは頷くと立ち上がり、窓の外を見ながら話を続けた。

 「いいか、アレン。ウォーリング家がここ数年衰え始めてきたことは否定出来ない。すでに取引先などに気付かれている気配もある。次の式典は、そんな不穏な空気など一掃するくらい豪華でなくてはならん。ウォーリング家は大丈夫なのか?という噂を、まだまだ安泰だな、より一層栄えていくだろうという噂に変えなくてはならん。それには…、ん?」
 
 神妙に聞いていたアレンは、途中で言葉を止めたジョージを不思議に思って顔を上げた。

 「どうかした?親父」
 
 思わず言ってしまってから、まずいと首をすくめる。