桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

 「メアリーは、坊ちゃまの五つ上なのですが、もうずいぶん長くここにお仕えしているのです」
 「そう言えば、メアリーも日本語すごく上手だものね。あれ?でもアレンのお母様がいらした時は、メアリーはまだ…」
 
 そうなんです、とクレアは言って、長い話を聞かせてくれた。

 アレンがまだ三歳だった頃、ウォーリング家で働きたいと若い女性が訪ねてきた。

 そういったことは珍しくなく、実際にそのまま働き始めるメイドも多い。

 だが、彼女は少し違っていた。
 八歳の女の子の手を引いてやって来たからだ。

 「あ、その女の子がメアリー?」
 
 美桜の言葉にクレアは頷いて話を続けた。
 
 その女性、メアリーの母親は夫を亡くし、困り果てて住み込みで働けるところを探していたのだ。

 だが、ウォーリング家に住み込みで働く者に子連れはいない。

 クレアやグレッグ達は、どうしたものかと戸惑ったらしい。

 「偶然そこにゆりえ様が通りかかられ、事情をお話しすると、すぐにこう仰いましたわ。今日にでもここに越して来なさい。もちろん娘さんも一緒に、と」
 
 メアリーの母親は感激し、精一杯お仕えしますと何度も頭を下げたらしい。

 そうしてメアリーも一緒に、パレスの離れにあるメイドの住まいに越して来た。

 「そこまでは良かったのですが、なにせ子連れのメイドが初めてだったものですから、母親の仕事中どうすればいいのか困ってしまって。学校から帰ったら、とにかく部屋でおとなしく過ごすように言うしかなかったのですわ。ですが、ゆりえ様はその事にもすぐにお気付きになって、メアリ―も一緒にパレスに連れていらっしゃいと仰いました。せっかくアレンの良いお友達が近くにいるのだからと。私達は、さすがにそんなことは、と反対しましたわ。メイドの子とご子息を一緒に遊ばせるなんてと」
 
 アレンの母はそんなクレア達の言葉を気にせず、やって来たメアリーに、アレンの遊び相手になってくれる?と聞いたのだそう。
 あなたの方が少し年上だから、お姉さん代わりになってやってと。