「今日からいよいよホワイトデーのレッスン本格始動!頑張るぞ!」
 
気合を入れて、美桜はレッスンルームのドアを開けた。

体をほぐしているとやがて巧がやって来て、いきなり、ごめん!と手を合わせる。

え、何が?と美桜は驚く。

「あのさ、今日からバレエの先生来るじゃん?それで俺、ちょっと前に由香先輩に聞かれたんだ。バレエ業界には特にツテもないから、うちのダンススタジオの先生に声掛けてみてもいいかって。いいですよーって軽く答えたら、なんとうちの先生オッケーしたんだって。だから今日から来るんだ、その・・・」
「ああ、例のダメ出し先生?」
「うん。すまん。覚悟してくれ」
「やだ、巧くんが謝ることじゃないでしょ。それにそんな大げさな。わざわざ私達の指導に来て下さるんだもん。有難いよ」
 
笑顔でそう言った美桜だったが、いざレッスンが始まると、そんな余裕は吹き飛んだ。

「美桜さん!アラベスクの足は綺麗に伸ばす!ポールドブラは丁寧に!背中はもっと反らす!軸足しっかりパッセはもっと高く!」
 
矢継ぎ早に繰り出されるダメ出しの嵐。

初日のレッスンが終わり、レッスンルームを後にする頃には、美桜はもうヨレヨレだった。

「いたたた、うっ筋肉痛が・・・」
「大丈夫か?美桜」
 
巧が見かねて肩を貸してくれる。

「ごめんな、やっぱりキツイだろ?あの先生」
「ううん。巧くん、私ね、追い込まれると火がつくタイプなの。今すんごい燃えてるの。最後まであの先生に食らいついていく。そして絶対ショーを最高のものにして見せるわよ」
「お、おお」
 
ガッツポーズで一点を見据える美桜は、今まで見たことがないほど気合に満ちており、巧はちょっとたじろいだ。