ピピピピピ!
 
無機質な音がいきなり頭の中に鳴り響き、美桜は、うーんと布団をかぶり直した。

けれどそのままという訳にはいかない。
手探りで枕元のアラームを止めると、仕方なく目を覚ました。
 
見慣れない低い天井、そう思ったのは最初だけだ。

(ああ、そうか。こっちが現実か)
 
苦笑いしてベッドから降りる。

(うわっ、さむ!)
 
とたんに身震いして、慌ててエアコンを付けた。

(あーあ、広くて温かいお部屋、優しいメアリー。言っちゃダメだと分かってるけど・・・)

「戻りたーい!」
堪えきれず声に出してしまう。

(はは、むなしいだけね。さ、切り替えて頑張ろう)
 
美桜はトースターに、夕べコンビニで買ったロールパンを入れて温める。

空港からの帰り道、とりあえずの飲み物と朝食を買っておいた。

(今日は仕事帰りにスーパーで買い物しないとなあ)
 
コーヒーとパンを食べ終わると、仕事用の鞄の中を確認して、着替える。

職場に着いてから舞台用のメイクをする為、たいてい家を出る時はすっぴんだ。

起きてから二十分後には出かける準備は出来ていた。

(もう一つ食べちゃお)

袋からロールパンを一つ取って口に入れながら、玄関を出てカギを締める。

(こんなところクレアに見られたら怒られるわね。美桜様!お行儀が悪いですわって)
 
気付くとついつい思い出に浸ってしまう自分に苦笑いして、美桜は気を引き締めた。

(今日から仕事!頑張るぞ!)