「明日、空港までアレンも見送りに来てくれるらしいけど、大丈夫なのかな、あいつ。夕べかなり熱が出たんだって?」
 
そう言ってからコーヒーを一口飲んだ仁は、返事が返ってこないことを不思議に思って隣の美桜を見た。

「美桜ちゃん?」
顔を覗き込むと、どうやらすやすや眠っているようだった。

(やれやれ、疲れたのかな。そりゃそうだろ)
 
ソファの端にあったブランケットを取って広げると、そっと美桜の肩に掛ける。

(起こしちゃったかな?)
もう一度美桜の顔を覗き込んだが、変わらずよく眠っているようだった。

(子どもみたいだなあ。安心しきって寝てる)
 
ふっと笑ってしばらく美桜の寝顔を見ていた仁だったが、次第に妙な切なさがこみ上げてくるのを感じた。

(なんだ?なんでこんな気持ちになるんだ?)
 
自分で自分の気持ちを持て余し、胸元をギュッと掴んだ。

(いつだって、少し離れて美桜を見てきた。近付きすぎないように。そう、近くにいってしまったら、抑えられないって)
 
頭の中に、誰のものとも分からないような台詞が浮かび、仁は吸い寄せられるように美桜に顔を近付けていく。

ギリギリのところで一瞬ためらった後、仁は美桜に口づけようとした。
その時だった。